長年バイオリンを教えていて感じるのは、子どもたちの曲の好みは本当にさまざまだということです。
速くて格好いい曲に憧れる子が多い一方で、ゆっくりと歌うような曲が好きな子も確実にいます。
そんな「ゆっくり歌う曲が好きな子」に、ぜひおすすめしたいのが
**ヴィエニャフスキ作曲《レジェンド》**です。
情感豊かで美しく、演奏する人の音楽性がそのまま表れる名曲です。
曲の難易度
《レジェンド》は、新しい教本では6巻に収録されているため、中上級者向けの曲です。
目安としては、
-
バッハ:無伴奏パルティータ第3番 プレリュード
-
カバレフスキー:ヴァイオリン協奏曲
これらの前後に位置づけられるレベルです。
また、新しい教本5巻の
-
ヴィオッティのコンチェルト
-
ラ・フォリア
の後に取り組むのが一般的です。
スズキ・メソードでは《ラ・フォリア》が6巻に出てきますが、スズキ版の方がやや易しく作られているため、スズキ教本基準では7巻程度と考えると良いと思います。
ブルッフなどの標準的な協奏曲や、ヴィエニャフスキの他の作品を先に学ぶ方もいますが、筆者としてはブルッフの前に十分取り組める曲だと感じています。
もちろん、得意・不得意は人それぞれ、どのくらいの完成度を求めるかにもよります。
速い曲が得意な人、歌う曲が得意な人によって、適切な時期は変わります。
難しいポイント
ダブルストップとトリル
この曲ではダブルストップ(重音)やオクターブトリルが多く登場します。
音程感覚と左手のコントロールがしっかりしていないと苦労する部分です。
技術だけでなく音楽性が必要
単に「難しいことができる」だけでは不十分で、
フレーズごとの感情表現や歌い方がとても重要になります。
この曲で身につけたいこと
中・上級者にとっては、
-
重音の安定
-
場面が切り替わるときのコントラスト表現
を学ぶのに最適な曲です。
上級者にとっては、
-
美しい音色
-
ビブラートの質
-
表現力の幅
をさらに高めるための、大切な勉強曲になります。
また、
ピアニッシモ(非常に弱く)からフォルテッシモ(非常に強く)まで、
幅広いダイナミクスを扱うため、繊細さと力強さの両立を学ぶことができます。
曲の特徴
流れるような旋律と、ドラマティックな展開が魅力の曲です。
-
速いパッセージでは興奮や高揚感
-
ゆっくりした部分では深い感傷や悲しみ
を表現する必要があり、演奏者の感性が問われます。
必要なテクニック
-
第7ポジションまで使用
-
3度・6度・8度の重音
-
歌うための安定したビブラート
これらを事前に練習しておくと、スムーズに取り組めます。
教えてみて感じる事
重音が多いため、最初は「難しそう」と引いてしまう子もいます。
しかし、重音を一つずつ丁寧に取れるようにしていくと、
意外と弾きやすい曲だと感じることが多いです。
テンポがゆっくりなので、
-
指を準備する
-
音程を確認する
といった練習にはとても向いています。
ただし、重音を支えるには左手のある程度の筋力が必要です。
そのため、曲に入る前から少しずつ重音練習を取り入れることをおすすめします。
練習しておきたいこと
重音練習は音階教本でも可能ですが、
Ševčík Op.9を導入として使うと、左手の筋力づくりにとても効果的です。
また、ポジションチェンジについては
Ševčík Op.8を繰り返し練習することで、高いポジションも第一ポジションのような感覚で弾ける日が必ず来ます。
《レジェンド》は、
「ゆっくり歌うことの美しさ」を学べる、非常に価値の高い一曲です。
技術と音楽性の両方を育てたい生徒さんに、ぜひ取り入れてみてください。
楽譜
|
|